*加藤 聡史 1) 、占部 城太郎 1) 、河田 雅圭 1)
1) 東北大学 大学院 生命科学研究科 生態システム生命科学専攻
生物の多様性が維持されるメカニズムは生態学における重要な問題の一つである。共存できる種の数は資源の数を超えないという理論予測と、数種類の資源が制限要因とされる野外の湖沼で実際に観察される藻類の種数の多さとの矛盾は、「プランクトンのパラドクス」(Hutchinson,1961)とよばれる古典的命題として知られている。
制限となる資源をめぐる競争系での多種系維持のメカニズムのひとつに、資源供給比の不均一性による説明がある(Tilman, 1982)。しかし、一般的に均質と考えられている水系においては、何がそうした資源の不均一性の成因となるのかが不明である。
われわれは捕食者による栄養塩再循環(以下CNRと略記する)に着目し、CNRを考慮すると、捕食者バイオマス(とそれに伴う栄養塩リサイクル)の時間的・空間的変動によって、捕食者が藻類多種系を維持する要因となり得るのではないかと考えた。
そこで、3栄養段階(栄養塩―藻類―ミジンコ)のケモスタット系についての個体ベースシミュレーションモデルを用いて、(1)CNRの有無、(2)空間の有無、(3)資源供給量、が藻類多種系の維持にどのように影響するかを調べた。
その結果、捕食者のリサイクルと空間構造があるときに維持される藻類の種数が最大となる、つまり、捕食者が多種系を維持する要因となり得るという結論が得られた。
本発表では、上記(1)_から_(3)に挙げたそれぞれの要因が藻類多種系の維持メカニズムにどのように働いているかを考察し、捕食者が多種系維持に与える効果として、従来考えられてきた被食者の死亡に働きかけることで種間競争を調節する効果ではなく、被食者の生産性に働きかける効果という新たな側面からのアプローチを提供する。
生物多様性; プランクトンのパラドクス; 消費者による栄養塩再循環; 個体ベースシミュレーションモデル; 空間的異質性